お知らせ

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【平成28年1月11日開催】自死問題シンポジウム「むきあう・ささえる・つながる~セクシュアル・マイノリティの直面する困難から個人の尊厳を考える~」

テーマ:「むきあう・ささえる・つながる~セクシュアル・マイノリティの直面する困難から個人の尊厳を考える~」
日  時:平成28年1月11日(祝)13:30~16:50
会  場:明治大学中野キャンパス5Fホール(東京都中野区中野4-21-1)
参加人数:113名
 
【当日の様子】
 清家亮三会長による開会挨拶に続き、まず、第1部として、尾辻かな子氏(一般社団法人LGBT政策情報センター代表理事、前参議院議員)から「同性愛者であるということ」というテーマで基調講演が行われました。
  
 セクシャル・マイノリティの直面する問題の基礎知識として、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)という用語の説明について、レズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシャル(両性愛者)は、自分がどの性別の人を好きになるのかという自分と他者との関係からの分類であり、これに対してトランスジェンダー(性別越境者。性同一性障害者を含む概念とされる。)は、自分自身の心の性別と体の性別が不一致の状態であり、その心と体の性別を一致させようとする人たちという概念であるということが説明されました。
 
 異性愛が何の治療の対象とならないように、同性愛も何らの治療の対象になるものでもないし、なるべきものでもないこと、セクシャル・マイノリティの当事者の多くが不快に感じる表現があるので呼び方などに注意してほしいこと、人口の約3~10パーセントがセクシャル・マイノリティであるという調査結果があることなどが説明されました。
 
 次に、セクシャル・マイノリティが抱える問題として、子どもたちが直面する課題があり、セクシャル・マイノリティである子ともが思春期に自分が同性愛であることに気づいたときには、自己否定や葛藤が生じ、それを受け入れるには長い時間を要し、それを周囲にカミングアウトするには更に長い時間が必要となり、また、自分は果たしてこれからどのような人生を送れるのだろうかという不安があったことをご自身の体験をもとに説明されました。
 
 また、セクシャル・マイノリティの家族を取り巻く問題として、親との関係においてはカミングアウトに関して非常に困難が伴う問題が生じていること、同性愛にはパートナーとの関係において、異性愛のパートナーには当然に認められている法的な保障が受けられない状況が生じていること、ゲイとバイセクシャルの男性の高齢者は、異性愛の男性に比べて独身の割合が約3倍になることや、異性愛の男性の高齢者が一人で暮らしている割合が28パーセントなのに対し、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルの高齢者では、その割合が41パーセントになっているという調査結果があることから、今後、成年後見や任意後見の利用が増加した際に、これらの方々のニーズを把握し、適切に対応していくことも課題になるのではないかと述べられました。
 
 家族との関係については、ご自身が母親にカミングアウトした際、最初はそれを受け入れようとしなかった母親に対し、いろいろな同性愛の当事者と接してもらっていくと、やがては理解を示して受け入れてくれ、「LGBTの家族と友人をつなぐ会」の代表になってくれるまでになったというご自身の経験に基づくお話をいただきました。
 
 セクシャル・マイノリティと自死との関係については、男性は、性的志向が自殺未遂経験に関連する決定的要因であることが明らかであり、異性愛者ではない人の自殺未遂率は、異性愛者の約6倍になるという調査結果があることをお話しいただきました。
 
 最後に、一人ひとりが大事な存在として、司法書士も地域の中で専門職としてつながり、何かがあったときには相談にのってくれる存在であってほしいとまとめられました。
 
 
開会挨拶 東京司法書士会 清家亮三 会長
会長挨拶自死シンポ2016.JPG
 
第1部 基調講演 講師 尾辻かな子氏
基調講演尾辻かな子氏自死シンポ2016 (1).JPG
 
 
 続いて、第2部は、尾辻かな子氏、森あい氏(弁護士、同性婚人権救済弁護団員)、原ミナ汰氏(特定非営利活動法人共生社会をつくるセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク代表理事、LGBT法連合会共同代表、翻訳・通訳、よりそいホットラインセクシュアルマイノリティ専門ライン統括コーディネーター)、遠藤まめた氏(やっぱ愛ダホ!idaho-net代表)をパネリストとし、中村貴寿委員(司法書士、東京司法書士会自死問題対策委員会委員)をコーディネーターとして、「セクシュアル・マイノリティの直面する困難から個人の尊厳を考える」というテーマでパネルディスカッションを行いました。
 
1.LGBTが受けるいじめの被害実態というテーマでは、当事者が受けているいじめ被害の特徴についてや、いじめの内容が深刻化していることが報告され、その根底には異質な者をみつけてそれを集団で排除することによって一体感を持とうとするという残酷さがあり、その犠牲をLGBTが受けているという意見が述べられました。
 
2.同性のパートナーが直面する問題というテーマでは、主に以下のような意見や議論がなされました。
「同性間のカップルには法的な保障がない。同性間で結婚できないということには、結婚から生じる権利と義務を選択できないという問題がある。結婚できないことから生じる問題として、相続人になれないことや遺留分の割合が高くなる、また、遺産を譲り受けられたとしても配偶者であれば受けられる税制の優遇措置が受けられないといった相続の問題、また、配偶者としての在留資格を得られない、子どもの共同親権者になることができないといったような問題が生じている。同性間のカップルには、結婚ができないという問題だけではなく、きちんと別れるという問題、すなわち、異性間では結婚していれば離婚という制度があり、離婚するために調停や裁判という手続が利用できるのに対して、同性間のカップルにはそれらの手続の利用が制限されるために、きちんと別れたいのに別れられない、あるいは別れたくないのに勝手に別れられてしまうといった問題が生じていることも考えなければならない問題である。たとえば、DV(ドメスティックバイオレンス)について保護命令という制度がある。これは必ずしも法律上の婚姻関係にある者に限られず、同棲している場合にも認められるように今ではなっている。同性間のカップルについても、これまでに保護命令が出されたことはあるが、現在では、同性間のカップルには保護命令が認められないという解釈も打ち出されている。このように生命に関する危険があるような場合でさえも同性間の場合、同性間というだけで保護命令が出されない可能性があるというのが現状である。制度を変えるためには意識を変える必要があるが、その一方で制度を変えることで意識を変えることも重要である。
 トランスジェンダーには性同一性障害特例法があるから法律上保護されているということを聞くがそのようなことは決してない。法律上の性別を変えるために当事者にとっては過酷な要件が課されている。その要件を満たすことができないため性別変更を選択できない人がいることを知ってほしい。
 日本では同性愛について世代間の許容度が違う。20歳代は同性愛に対する許容度が高いが、60歳代は許容度が低い。若い世代がこれから声を上げていくことも問題の解決に向けて必要なのではないか」
 
3.アウティング(ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーなどに対して、本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性自認を暴露する行動のこと。)についてのテーマでは、主に以下のような意見が述べられました。
「弁護士への相談でも同性のパートナーと別れる際にゲイやレズビアンであることを家族や周囲に暴露すると脅されているという相談は多い。アウティングは仲間同士の何気ない会話の中でも行なわれていることもある。
 トランスジェンダーについてのアウティングには、悪意をもって行われるアウティングと、家を借りたり、就職する際などに書類上判明してしまうアウティングというのがある。
 免許証などは性別記載欄がないのでよいのだが、性別記載欄がある身分証というのは、トランスジェンダーにとって所持していたくないものである。このような何気なく行われるアウティングは、LGBTの当事者にとってはカミングアウトの強要になることがある。
 アウティングの相談を受けると、その対策として、怖がるから脅しになるので、アウティングをされても堂々としていればいいなどと回答してしまうことがあるが、そのような回答をしても当事者にとっては何も解決にならない。どういうことを恐れているのか、どうすればいいのかといった当事者の立場にちゃんと寄り添った対応をしていくことが大切である」
 
4.セクシャルマイノリティと自死というテーマでは、主に以下のような意見が述べられました。
「人が自死に追い込まれるには複合的な要因がある。LGBTが抱える問題を知ってその問題に理解を深めることでどのような支援をしていけるのかについて、これからLGBTに関する勉強会や書籍などに触れることによって知ったことをぜひ周囲に話をしてもらいたい。そのようなことが誰かを支援する際には役に立つと思う。個人として周りにいる人たちとどのようして支えあって生きていけるのかについて、自死の問題については専門家でなければ対処できない問題は確かにあるが、悩んでいる本人にとって『あなたのことが大切だ』と言ってもらいたいのは専門家ではなくて友人や仲間といった周囲の人たちだ。ピアサポーターを作るという活動に取り組んでいる。それは、専門家に共感してもらうよりも、仲間から共感してもらった方が死にたいと思っている本人にとってはうれしいはずであるからだ。もし死にたいと言っている友人がいたら本気で死にたいと考えているのかとか、具体的に計画を考えているのかといったことを聴いてみるとよいとされている。そのように具体的に聴くことによって、相手が自分のことについて真剣に話を聴いてくれる人だという信頼感が生まれることがある。
 死にたいと思っている人の心境を考えてみると、仕事ができない、病気で苦しんでいる、精神疾患がある等の状態になった時に元気であった時の自分から見ると現在の状況が耐えられなくなり、自分を否定して、自死を選択せざる得ない状態に追い込まれている。とにかく学校に行きなさい、仕事をしなさい、金を稼ぎなさいといった社会全体の選択肢のなさが自死に追い込んでいると思われ、その中でLGBTであるということも社会において大きな負担を強いられていると言えるのである。
 救急医療の現場では、薬物中毒によってリストカットして救急搬送される人は胃洗浄と傷の治療をしたら、もうそれで帰宅させてしまっているという問題がある。カウンセリングに保険を使えるようにするなどして自死のハイリスクにある方をカウンセリングにつなげるシステムを整える必要がある」
 
5.セクシャルマイノリティが抱える問題に対して、法律家は何ができ、また法律家には何が求められているのかというテーマでは、主に以下のような意見が述べられました。
「自分がその立場に立ったらどうなのかという視点で相談に乗ってもらいたい。秘密を守るということについては、前もって説明をするなどして特に意識することが必要である。本人が何を心配しているのかについて注意してほしい。その人の持っている困難を受け止めてもらいたい。その人のニーズに合わせた支援活動をしていただきたい。現在の制度は不十分なので法律を変えることについても一緒に声をあげて、その力を発揮していただきたい」
 
 
 最後に、会場の参加者からは、今後LGBTが高齢化していくにあたってお墓をどうするのかという問題が生じるのではないだろうか、公的機関が発行する書類について性別表記がどこまで必要であるのか、はたして本当に必要であるのかについてぜひ考えていただきたい、自分の中では答えは出ていないが自死の尊厳ということも認められるべきではないか、といったご意見をいただき、パネリストらとの意見交換が行われ、今回のシンポジウムは終了しました。
 
 
 東京司法書士会では、これからも自死問題や自死をもたらすさまざまな社会的な要因や問題に対して、目を向け、支えあい、皆様と協力して、自死に追い込まれる人のいない社会の実現に向けた活動に取り組んでまいります。
 
パネリスト 森あい氏
森あい氏自死シンポ2016.JPG
 
パネリスト 原ミナ汰氏
原ミナ汰氏自死シンポ2016.JPG
 
パネリスト 遠藤まめた氏
遠藤まめた氏自死シンポ2016.JPG
 
第2部 パネルディスカッション 「セクシュアル・マイノリティの直面する困難から個人の尊厳を考える」
パネル全体自死シンポ2016.JPG
 

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