性同一性障害者特例法に関する最高裁判所大法廷における違憲決定を受けて(会長談話)
性同一性障害者特例法に関する最高裁判所大法廷における違憲決定を受けて
(会長談話)
令和5年11月21日
東 京 司 法 書 士 会
会 長 千 野 隆 二
令和5年10月25日、最高裁判所大法廷は、裁判官15人全員一致の意見により、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」といいます。)第3条第1項に基づく性別の取扱いの変更をするには、抗がん剤の投与等によって生殖腺の機能全般が永続的に失われているなどの事情のない限り、生殖腺除去手術(内性器である精巣又は卵巣の摘出術)を受ける必要があることを前提とする特例法第3条第1項第4号の規定(以下「本件規定」といいます。)が、憲法第13条に違反し無効であるとの決定をしました。
最高裁判所は、この決定において、自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由が、人格的生存に関わる重要な権利として憲法第13条によって保障されているところ、「本件規定による身体への侵襲を受けない自由の制約については、現時点において、その必要性が低減しており、その程度が重大なものとなっていることなどを総合的に較量すれば、必要かつ合理的なものということはできない」として、本件規定は憲法第13条に違反すると判示しました。なお、今回の違憲決定において、15人中3人の裁判官は、本件規定だけにとどまらず、「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」とする特例法第3条第1項第5号の規定(いわゆる外観要件)についても憲法違反であるとの反対意見を述べています。
今回の違憲決定を受けて、今後、特例法の改正に向けた議論が進み、違憲無効とされた本件規定だけにとどまらず、いわゆる外観要件を含む規定についても、基本的人権への制約が許されるか否かの観点から見直しの議論が進むものと予想されます。
当会は、これまでもシンポジウム「むきあう・ささえる・つながる~セクシュアルマイノリティの直面する困難から個人の尊厳を考える~」の主催(平成28年1月11日開催)や渋谷区が実施する「にじいろパートナーシップ相談」への相談員派遣のほか、「当会弔慰及び見舞金等規程」第3条において、その支給対象とする「配偶者」に事実上の婚姻関係にあることを官公署が承認して発行する証明書を有する同性パートナーも含める旨の規定を整備するなど、セクシャルマイノリティの方々が直面する困難に向き合い、国民の権利を擁護する司法書士としてどのような役割を果たせるかを模索し、実践してきました。このほか、日本司法書士会連合会が平成30年から取り組む東京レインボープライドにおける相談会に当会会員も参加し、セクシャルマイノリティや同性婚等の問題に取り組んできました。
当会は、国民の権利の擁護と自由かつ公正な社会の形成への寄与を使命に掲げ、裁判所への性別の取扱いの変更の申立てに関与する司法書士の団体であるところ、本件規定を憲法第13条に違反すると判断した今回の違憲決定は、権利の擁護の観点から意義深いものと評価するものであり、今後の特例法の改正議論を通じて、全ての国民が、その性自認や性的指向にかかわらず個人として尊重され、自由かつ公正な、生き生きとした人生を享受することができる社会が実現されることを期待いたします。