民事判決情報データベース化検討会報告書に対する意見
令和6年5月7日
東 京 司 法 書 士 会
会 長 千 野 隆 二
当会は、標記について、次のとおり意見を申し述べる。
第5 基幹データベースを整備するための制度の在り方
1 情報管理機関による民事裁判情報の取得の在り方
(1)取得する民事裁判情報の範囲
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
(1)イにおいて、訴訟関係者の権利利益を保護する観点から、電子判決書や電子決定書について閲覧等を制限する決定が行われている場合、情報管理機関は、当該決定の対象となった部分を除いて民事裁判情報を取得すべきであると示されているので、反対する理由がない。
(2)訴訟関係者の権利利益に格別の配慮を要すると思われる事案について
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
訴訟関係者の権利利益に配慮するため、(2)ウのような仕組みが設けられるのであれば、訴訟関係者の権利利益が守られることになるので、反対する理由がない。
(3)決定及び命令について
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
裁判所及び情報管理機関の負担等を考慮し、当面、必要性の高い決定及び命令から情報管理機関が取得するという方向性については、現状、やむを得ないものと考える。今後、大量情報を画一的にデータ処理することを早期に実現することを望む。
報告書に記載のとおり、必要性の高いものを選択するという作業は、選別する手間という別の負担が生じるおそれがあるからである。
2 適切な仮名処理の在り方
(1)第一次的な処理の基準において仮名処理の対象とすべき情報等
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
情報管理機関が記載のとおりの情報について仮名化することに賛成する。
(2)検討の視点
アについて
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
訴訟記録は原則として誰もが閲覧可能であるが、現状では、インターネットでの公開はされておらず、訴訟記録を閲覧するためには管轄裁判所を訪問する必要があることから、裁判所へのアクセスや訴訟記録たる判決書の内容の公開方法には物理的な制限が存在していた。しかしながら、データベース化に伴い、広く国民が容易に判決情報の内容を閲覧可能となるため、訴訟関係者のプライバシー保護の観点から、情報管理機関が一定の情報に仮名処理を施すべきである。
(3)特定の個人を識別することができる情報等について
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
弁護士や司法書士、裁判官などの専門家の氏名は公開することに異議はない。公的機関の代表者については、その氏名に限っては公開の対象としてよいが、公的機関の代表者であることが裁判書の記載から明らかでない場合は、一律に仮名化することも考えられる。芸能人や著名人の氏名については、その氏名が一般的に公に知られ、公的な注目を浴びることを前提に、その名前自体が商品やブランドの一部として認識されているので、仮名化の対象外とすることも考えられるが、現状においては、一律に仮名化処理をするべきである。
一方で、公人といわれるような人物の氏名については、純粋な個人の氏名とは異なり、仮名化の対象外とすべき場合もあることから、仮名化の対象外とすべき場合について、今後の検討が必要である。
(4)他の情報と組み合わせることにより個人を識別する情報
<意見の要旨>
各ケースで個人の特定によるリスクが異なることを考慮して、運用の開始時点においては、事後的な措置について広く仮名処理を行うよう対処すべきである。
<理由>
他の情報と組み合わせることにより個人を識別することができる情報については、事後的な対応を行う仕組みの中で対処するほか、情報管理機関と利用者との間の提供契約における規律において対処すべきである。情報の組合せによる個人の特定を完全に防ぐことは不可能であるし、特定された場合のリスクについては個々人によって異なる。特に、犯罪歴や個人の政治的信条、宗教的信念、人種情報等、要配慮個人情報に含まれる重要なプライバシー情報が記載されている場合など、個人が特定されないように配慮が必要であろう。
一方で、情報管理機関において、情報の組合せにより個人が特定される可能性とリスクの予測は難しいため、運用の開始時点においては事後的な措置として柔軟に仮名処理を行うべきである。また、裁判所に対して判決書の閲覧等制限の申立てを行うことも考えられるが、申立時期によっては救済が困難となることや、申立人に費用負担が発生することから、閲覧等制限の申立てによる救済のみでは十分ではないと考える。
(5)法人の名称等について
<意見の要旨>
法人の名称について仮名化処理の対象外とすることについて賛成する。ただし、事後的な救済措置において仮名処理を行うことができる場合を設けるべきである。
<理由>
法人の名称や所在地について、プライバシーを観念できないことに異論はない。一方で、実際には法人の名称等が公開されることについて、レピュテーションリスクや商業登記簿等を通じた役員個人の住所、氏名の特定リスクが存在する。レピュテーションリスクについては、判例データベースが公開され浸透した後、国民の裁判制度についての理解が深まることで、法人が適切な対応を行えば、レピュテーションリスクは軽減される可能性がある。また、商業登記簿等を通じた役員個人の住所、氏名の特定リスクは、商業登記制度の在り方の問題でもある。現在、令和6年10月1日施行の改正商業登記規則等により一定の要件を満たした場合、申出により法人の代表者の住所を登記簿から省略することが可能となる予定である。いずれにせよ、特に経営基盤が弱い中小企業においては、運用の開始時点においてはレピュテーションリスクと個人の特定リスクについて懸念があることは間違いなく、仮名化に配慮すべき場面が生じることが想定される。
一方、法人の名称については、その名称が公開されることで、裁判事例の累積を容易にし、特に消費者事件の解決に役立つことが期待され、消費者事件での消費者保護の立場からは公開が望ましいと考えられる。法人の名称について、事後的な措置で仮名化処理を行うことが困難であり、また、仮名化処理で保護すべき法人とそうでない法人の線引きは困難であるから、法人の名称については、全て公開するか全て仮名化するかの二択になると考えられる。
法人名称公開によって得られる利益と不利益を比較衡量した場合に、今般の制度の趣旨等に鑑みても、非公開とする積極的な根拠はないと言わざるを得ない。別途、法人のレピュテーションリスクについては、今後の二次利用等における検討課題とすべきである。
(6)仮名処理基準の策定及び運用に当たっての留意事項
<意見の要旨>
情報管理機関の裁量において仮名処理の有無を判断できる場合を設けること、情報管理機関において柔軟に仮名処理基準や運用の在り方を変更することに賛成する。
<理由>
本制度の運用が開始される前に、完全な仮名処理基準を設けることは不可能であるし、今後、AIの技術が進展した時には様々な仮名処理が可能となることもありうることから随時十分な検討を行いながら情報管理機関に裁量を持たせ、かつ、柔軟に仮名処理基準とその運用を見直すことができる体制を構築することが重要である。
3 民事裁判情報の提供や利活用の在り方
(1)情報管理機関による民事裁判情報の提供方法等
アについて
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
本文の提案は、制度目的に資する。なお、本文の前提として、裁判所から関連情報も併せて情報管理機関に提供するルールとしなければならず、裁判所内においても、それらの情報が民事判決情報と併せて整理されていなければならないはずである。裁判所内のシステムの問題となろうが、スムーズな情報提供が可能となるシステムの構築に期待する。
イ及びウについて
<意見の要旨>
賛成するが、以下についても検討する必要がある。
<理由>
提供される価値に応じた費用を利用者側で負担する方針に異論はないが、民事裁判情報のデータベース化は民事裁判のIT化とともに国策として行うべきとの考えに基づき、本文にもあるように民事裁判情報が公共財としての側面を有するのであれば、国費を投入し、民事裁判情報のデータベースの利用者の負担を軽減することも考えられる。
エについて
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
判決情報について、一定の網羅性が担保される方法による提供が必要なことは言うまでもないが、利用者に提供される情報量が増え、利用者の負担が大きなものになると、実際の利用者が限られるおそれがある。より限定した範囲での提供が可能となれば、利用者が軽負担で利用できる可能性があり、リーガルテック分野のますますの発展に資すると考える。
(4)提供の在り方について
ア~ウについて
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
方針に異論はないが、仮名化のみならず、関連情報の付加、情報漏洩等に関する安全管理措置等の様々な手当を行えば、費用がかさみ、これが利用料に転嫁されると利用自体がしにくくなることも考えられることから、随時の見直し、再検討をすべきであると考える。
4 民事裁判情報の管理の在り方
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
民事裁判情報は、いわゆる個人情報保護法に定める個人情報のみならず、より広く訴訟関係者の権利利益に関わる情報が含まれるものであるから、情報管理機関に安全管理措置等が求められることは当然と言える。
なお、情報処理機関が、仮名処理前の民事裁判情報を消去した後に、利用者から民事裁判情報が電子裁判書の内容と異なっている旨の指摘を受けた場合に、必要な是正を行うための前提となる情報が裁判所における民事裁判記録または国立公文書館にしか保存されていないこととなるため、その是正のために必要な法整備や費用については留意する必要があるものと考える(4(1)エオ)。
5 事後的な措置等の在り方
(1)情報管理機関が行うべき事後的な措置等
<意見の要旨>
情報管理機関が、事後的な措置を行うに当たり、申出内容の調査、検討を行うための必要な体制整備として、情報管理機関において加工処理前の情報を一定期間保有する制度を設けるべきである。
<理由>
民事判決情報につき、仮名化処理の基準に適合していない旨の申出等が出された場合は、例えば、仮名化された当事者が特定され、当該人物の社会的信用への影響、生命身体の侵害可能性等が現に発生する等、迅速な対応が求められる場面が想起されるからである。
6 情報管理機関に対する監督等の在り方
<意見の要旨>
賛成する。
<理由>
情報管理機関の指定などにより、その適格性を担保するために監督官庁による監督を求めることには合理的な理由があると言えるが、監督官庁による監督が形式的なものにとどまることがないよう留意し、情報管理機関における業務執行の透明化が図られることが望ましい。
なお、情報管理機関に対する監督は、司法制度と密接な関係にあり、裁判所や裁判手続に関する専門性が深く、かつ、行政機関においても中立的であることが求められ、国民の司法システムに対する信頼を構築するという目的において、法務省が監督官庁としてこれを行うことが適切と考える(6(4))

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