パブリックコメント「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」に対する意見
パブリックコメント
「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を
改正する命令案」に対する意見
令和7年3月28日
東京司法書士会
当会は、標記命令案に関して意見を述べる。
1.本改正案の方向性について
【意見の趣旨】
本改正案の方向性について、賛成する。
【意見の理由】
本改正案は、非対面での本人特定事項の確認において利用されている、特定事業者が提供するソフトウェアを使用して撮影をさせた顧客等の本人確認書類の画像情報の送信を受ける方法及び顧客等の本人確認書類の写しの送付を受ける方法について、本人確認書類の偽変造等によるなりすまし等のリスクに鑑み、廃止するとの改正を含むものである。
司法書士は、これまでも犯罪による収益の移転防止法に基づく本人特定事項の確認を的確に行ってきたところであるが、この間、口座開設時等においてなりすましによる犯罪が相次いでいることから、なりすまし等のリスクを低減させ、取引の安全性を向上させる方向へ改正を行うことは理解でき、必要なものであると考える。
したがって、本改正案の方向性そのものについては賛成する。
2.改正前規則第6条第1項第1号ホの削除について
【意見の趣旨】
本改正案のとおり改正することについて、やむを得ないものと考える。
【意見の理由】
本改正案では、特定事業者が提供するソフトウェアを使用して撮影をさせた顧客等の本人確認書類の画像情報の送信を受ける方法(改正前規則第6条第1項第1号ホ。以下「ホ方法」という。)を削除している。
ホ方法は、不動産取引や会社登記の際、司法書士が行う電子的・非対面の本人特定事項の確認方法として、既に一定程度浸透しているものであるから、これを削除することは不動産取引や会社登記の司法書士実務に大きな影響を与えるものである。
他方で、なりすまし等のリスクを低減させ、取引の安全性を向上させる方向で改正を行うことそのものは理解できるところである。
したがって、ホ方法を削除する改正はやむを得ないものと考える。
3.改正後規則第6条第1項第1号トについて
【意見の趣旨】
(1)本改正案に賛成する。
(2)「偽造防止措置」の内容を通達等で明らかにすることを求めるとともに、司法書士等の特定事業者が簡便に書類の真贋判定が行えるようにすべきである。
【意見の理由】
(1)意見の趣旨(1)について
改正後規則第6条第1項第1号トにおいては、印鑑登録証明書や住民票の写し等の原本の送付を受け、取引関係文書を書留郵便等の転送不要郵便物等として送付する方法による本人特定事項の確認を認める旨が規定されている。
顧客等の中には、個人番号カードを所持しない者、半導体集積回路が組み込まれた写真付き本人確認書類を所持しない者、これらのパスワードを把握していない者、機器の読み取りエラーや操作ミス等により本人特定事項の確認を完結できなかった者などが現に存在していることは、司法書士が行う本人特定事項の確認において経験則上明らかである。
そのような状況にある顧客等から、印鑑登録証明書や住民票の写し等の原本の送付を受けるとともに、取引関係文書を書留郵便等の転送不要郵便物等として送付を行う方法を認めることは、非対面取引におけるなりすまし等のリスクを低減させつつ、「誰一人取り残さないデジタル社会」を実現するとの観点から評価することができる。
したがって、本改正案について賛成する。
(2)意見の趣旨(2)について
改正後規則第6条第1項第1号トにおいては、改正後規則第7条第1号ニに限定した書類の送付を受けることとされており、同条同号ニにおいては印鑑証明書、住民票の写し等に類するものとして、「官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があり、かつ、偽造を防止するための措置が講じられたものに限る」を認めるとの内容となっている。
利用できる本人確認書類を偽造防止措置が講じられたものに限定することは、なりすまし等のリスクを低減させ、取引の安全性を向上させる観点から評価することができるものの、偽造防止措置には、すかし、けん制文字、偽造防止検出画像など様々なものが存在しているところ、本改正案の「偽造を防止するための措置が講じられたもの」が具体的にどのような内容であるか必ずしも明らかではない。
よって、本改正案施行の際には、その内容を通達等で明らかにすることを求める。
また、司法書士実務においては、不動産取引等において、顧客等からコンビニエンスストア発行の印鑑証明書等を取引現場で預かることもあるところ、偽造防止検出画像の確認には特殊な画像確認器具を要するため、取引現場でこれを確認することは容易ではない。
よって、書類に講じられた偽造防止措置について、司法書士等の特定事業者が簡便に真贋判定を行うことができるようにすべきである。
4.改正前規則第6条第1項第1号リの削除について
【意見の趣旨】
本改正案のとおり改正することについて、やむを得ないものと考える。
【意見の理由】
本改正案では、顧客等の本人確認書類の写しの送付を受けるとともに取引関係文書を書留郵便等の転送不要郵便物等として送付する方法(改正前規則第6条第1項第1号リ。以下「リ方法」という。)を削除している。
リ方法は、新型コロナウイルス感染症流行後に定着した、取引当事者が一堂に会することのない不動産取引等における、司法書士が行う本人特定事項の確認方法として、既に一定程度浸透しているものであるから、これを削除することは不動産取引や会社登記の司法書士実務に大きな影響を与えるものである。
他方で、なりすまし等のリスクを低減させ、取引の安全性を向上させる方向で改正を行うことそのものは理解できるところである。
したがって、リ方法を削除する改正はやむを得ないものと考える。
5.改正後規則第6条第1項第1号ワ及びカについて
【意見の趣旨】
いずれも賛成する。
【意見の理由】
改正後規則第6条第1項第1号ワ及びカは、住民基本台帳法の適用を受けない者又は国外転出者について、改正前のリ方法に相当する方法を引き続き利用できることとするものである。
国外転出者等と面談して本人確認書類の提示を受けることは容易ではなく、これまでも改正前のリ方法に相当する方法を利用して本人特定事項の確認を行ってきたところ、これを国外転出者に対しても利用できなくすることは国外転出者の本人特定事項の確認を著しく困難とさせる。
したがって、国外転出者等について、改正前リ方法を引き続き利用できることとする本改正案について、いずれも賛成する。
6.法人である顧客等の本人特定事項の確認方法(規則第6条第1項第3号関係)について
【意見の趣旨】
本改正案のとおり改正することについて、やむを得ないものと考える。
【意見の理由】
本改正案では、法人である顧客等の本人特定事項の確認方法のうち、本人確認書類の写しの送付を受ける方法を削除している。
この方法も、不動産取引、会社登記等における、司法書士が行う本人特定事項の確認方法として、既に一定程度浸透しているものであるから、これを削除することは不動産取引や会社登記の司法書士実務に大きな影響を与えるものである。
他方で、なりすまし等のリスクを低減させ、取引の安全性を向上させる方向で改正を行うことそのものは理解できるところである。
したがって、本改正はやむを得ないものと考える。
7.さらなるインフラ整備と周知について
【意見の趣旨】
本改正案の施行まで約2年あることから、本人確認書類に組み込まれた半導体集積回路に記録された情報を、誰もが簡便に送信及び確認できるインフラ整備とその周知をさらに進めるべきである。
【意見の理由】
本改正案が施行されることにより、今後、本人確認書類に組み込まれた半導体集積回路に記録された情報を送信及び確認する方法がますます浸透していくことが予想される。
本改正案においては、半導体集積回路が組み込まれた写真付き本人確認書類を所持しない顧客等に対する非対面取引を想定した本人特定事項の確認方法も確保されているところであるが(第6条第1項第1号ト)、これを所持している顧客等であっても、半導体集積回路に記録された情報を送信するためのアプリのダウンロード方法が分からない場合やパスワードを失念している場合など、的確にこれを行うことができない者も現に存在する。
よって、本改正案が施行されるまで約2年の期間があることから、例えばアプリのダウンロードを不要とすることや、個人番号カードのみならず運転免許証等についてもコンビニエンスストア等において簡便にパスワードの再設定ができることなど、誰もが簡便かつ安全に半導体集積回路に記録された情報を送信及び確認できるよう、更なるインフラ整備とその周知を行うことを求める。
以上