お知らせ

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東京地方裁判所本庁倒産部における法律上の根拠のない独自の運用について(会長声明)

東京地方裁判所本庁倒産部における

法律上の根拠のない独自の運用について(会長声明)

 

令和7年5月23日

東京司法書士会

会長 千 野 隆 二

 

1 破産手続は、「債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図る」と破産法第1条に定められているとおり、債務者が経済的苦境から回復する手段です。破産手続は、裁判を受ける権利の一部をなすものと考えられ、憲法が保障する国民の権利です。破産申立ての方法には、債務者本人が申立てをする方法と弁護士を代理人に選任して申立てをする方法があります。破産事件を含む裁判手続全般において、法専門家に依頼することは法律上の要件とされていません。

 

2 しかしながら、東京地方裁判所本庁において破産を取り扱う民事第20部(倒産部。以下「民事20部」といいます。)は、平成11年から、破産申立てに弁護士を代理人として選任することを強く要求するようになり、以後の統計上、代理人を選任しない破産申立ての割合は従来の約14%から急激に減少し、平成15年には1%を切り、事実上の代理人選任強制に近い制度を完成させています。民事20部における破産事件のうち、本人申立ての割合については、後記図表1のとおりです。図表1には、平成19年までのデータしかありませんが、この制度の運用は、現在に至るまで変更されていません。民事20部は、代理人選任の有無のみをもって「あらかじめ」事件の取扱いに差異を設け、代理人を選任するよう誘導しています。この取扱いに法律上の根拠はなく、この取扱いが、債務者本人による破産申立てへのハードルを高くしているといえます。

 

3 破産者の資産、負債、免責等について破産管財人が調査を行い、その結果を債権者に報告する「管財事件」には、「少額管財事件」と「通常管財事件」がありますが、上記民事20部独自の運用により、債務者にとって破産へのハードルを高くしているものが「少額管財事件」です。民事20部における少額管財制度は、代理人が選任されている破産申立てにおける予納金の額を一律に20万円とする一方、代理人を選任しない債務者本人による破産申立てにおいては一律に50万円以上の予納金を求めています。この運用をすることで、代理人を選任した場合に比して、「代理人を選任しなかったという理由のみにより」最低30万円の差が生じることとなります(後記図表2)。さらに、法人の破産において、法人と当該法人の代表者が同時に破産を申し立てる場合の管財費用は、代理人を選任していれば法人と代表者個人で合計20万円とされていますが、代理人を選任しなければ法人と代表者個人で合計120万円以上とされています。代理人選任の有無のみを理由とした予納金の差は最低100万円となり、債務者本人による破産へのハードルの高さがより一層際立ちます。

 

4 本来、事件内容は、申立てによって初めて確認することができるのであり、代理人選任の有無のみにより、あらかじめ内容について判断することはできないはずですが、民事20部は代理人選任の有無のみで事件の取扱いを決定します。民事20部の運用により代理人を選任するよう誘導させられ、また管財費用として要することとなった追加費用は、経済的苦境にある債務者が負担することとなります。民事20部は、事件の審査という裁判所に課せられた任務を代理人又は管財人という外部職能にアウトソーシングして事務負担を軽減しつつ、その費用負担を経済的苦境にある債務者に負わせることで、代理人を選任することなく破産の申立てを行おうとする債務者を根絶しようとしています。

 

5 このような民事20部独自の運用は、破産法が定める「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図る」(破産法第1条)という目的に反するものであり、民事20部の都合により、国民が自ら司法制度を利用しようとすることに障壁を設けるものです。裁判を受ける権利を守るべき裁判所が、意図的にこれを損なおうとするものと評価せざるを得ません。

 

6 当会は、本声明と同趣旨の文書を、過去6回(平成17年2月1日付け「要望書」、平成20年1月31日付け「要望書」、平成20年9月26日付け「要望及び質問書」、平成24年11月16日付け「要望書」、平成25年4月26日付け「東京地方裁判所破産部の運用に対する意見書」及び令和7年2月19日付け「東京地方裁判所本庁における破産事件の取扱いについて(要望)」)にわたり、東京地方裁判所に提出し、民事20部に運用の改善を求めてきました。しかし、東京地方裁判所は、これらに対する回答を一度たりともしていません。なお、上記のうち、平成25年4月26日付け「東京地方裁判所破産部の運用に対する意見書」については、当会ホームページで公開しております。

https://www.tokyokai.jp/about/statement_pdf/news130510.pdf

 

7 司法を利用する国民は、自らの力で手続を進めるのか、法律専門職に書類作成を依頼して手続を進めるのか、法律専門職を代理人に選任して手続を進めるのかを自主的に選択する権利を有し、その選択の自由は尊重されなければなりません。裁判所は、当会の意見を看過することなく、速やかに運用の改善を図るべきであると考えます。

 

8 当会は、今後も、裁判所の運用等に不合理な点があればこれを指摘し、その改善に向けた行動をとる、という姿勢で、裁判を受ける権利を求める国民を守る立場から、この問題に取り組んでまいります。

 

以上

 

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