お知らせ

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国民の個人情報やプライバシーの保護の観点から、 不動産登記受付帳の記録事項や開示手続の在り方の見直しを求める会長声明

国民の個人情報やプライバシーの保護の観点から、

不動産登記受付帳の記録事項や開示手続の在り方の見直しを求める会長声明

 

令和7年7月2日

東京司法書士会

会長 千 野 隆 二

 

1.不動産登記受付帳を利用した不動産売却等の勧誘

 昨今、不動産登記受付帳の開示請求で得られた情報を利用した不動産売却等の勧誘が行われているとの指摘がある。

 不動産登記受付帳とは、不動産登記規則第18条に基づき、法務局に備え付けられる帳簿であり、申請された登記について、「登記の目的」、「申請の受付の年月日及び受付番号」、「不動産所在事項」が記録される(同第56条)。実際には、これらの記録に加え、「所有権移転相続・法人合併」、「所有権移転売買」のように、登記の原因となった事実又は法律行為も記録されている。

 そして、不動産登記受付帳は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「行政機関情報公開法」という。)における「行政文書」となるため開示請求の対象となる。多くの不動産業者や名簿業者などは、この開示請求を行い、得られた情報を利用して相続や競売等が発生した不動産の所有者の氏名及び住所を効率よく収集し、データベース化するなどして、不動産売却や不要品買取り等の勧誘を行っているとされる。

 

2.多くの司法書士が相談や苦情を受けたとの実態が明らかに

 当会では、実状を調査するため、令和6年8月30日~同年9月20日までの間、当会会員を対象としたアンケートを実施し、94件の回答を得た。

 アンケート結果では、個人情報やプライバシーの保護に懸念が生じ、国民が安心して相続登記を申請できないとの状況が生じていることが明らかとなった。

 例えば、「相続や離婚に伴う財産分与などの不動産登記を受任し、登記が完了した後に、依頼者から、登記をしたことで個人情報やプライバシーが漏洩したのではないかと心配である旨などの相談や苦情を受けたことはありましたか?」との質問に対して、回答者の41.5%が「相談や苦情を受けたことがある」との回答をした。

 また、「相談や苦情を受けたことがある場合、過去1年間で、その回数はどれくらいですか?」との質問に対しては、「1~4回」との回答が84.2%、「5回~10回」が10.5%、「11回以上」が5.3%と、多くの会員が相談や苦情を受けたとの実態が明らかとなった。

 さらに、アンケートの自由記述では、「不動産業者からダイレクトメールが突然届くようになったのはなぜか」、「相続登記完了後、不動産業者からダイレクトメールが送られてきたが、司法書士が情報を漏らしていないか」等、司法書士からの漏洩が疑われたとするものもあった。

 

3.行政機関情報公開法に基づく開示請求件数の6割以上が不動産登記受付帳に関するものであることに対する当会の見解

 このような実態は、総務省が公表している開示請求件数からも裏付けられる。令和5年度に各行政機関に対して行われた全ての行政文書の開示請求件数は205,660件であるところ、法務省に対する件数は148,309件と際立って多く、とりわけ不動産登記受付帳に関する件数は130,062件であった 。この件数は行政機関全体に対する開示請求の63.24%を占めている。

 また、不動産登記受付帳の開示請求件数を過去10年度分遡って確認すると、開示請求件数は一貫して増加しており、平成26年度は約31,000件 であったことから、10年で約4.2倍に増加したことがわかる。

 これらの数字は、不動産登記受付帳を利用した不動産業者等による勧誘の手法がますます増加して広く浸透していることを示しており、上記アンケートで示された実態を裏付けるものと言える。

 

4.国は、不動産登記受付帳の記録事項や開示手続の在り方についての見直しを行うべきである

 このような実態は、相続登記の申請が義務化された状況下において、国民が相続登記の申請を躊躇し、安心して相続登記を行うことができない状況と言える。また、相続登記の申請を担っている司法書士制度への信頼を損なうことになりかねない。先のアンケートでも、回答した会員の93.6%が「不動産登記受付帳の開示について制限を設ける必要がある」と回答しており、今や多くの司法書士が改善を求める喫緊の課題である。

 国は、不動産登記受付帳の記録事項や開示手続の在り方について見直しを行うべきである。この見直しに当たっては、不動産登記は「国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資する」(不動産登記法第1条)との目的があること、行政文書の開示請求は「国民主権の理念にのっとり、(中略)行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」(行政機関情報公開法第1条)との目的があることに鑑み、プライバシー権と知る権利が適切に調和されるよう、丁寧に議論を重ねていく必要があろう。

 当会は、不動産登記受付帳の記録事項や開示手続の在り方についての見直しに向けた議論を広く呼び掛け、国民が安心して不動産登記制度を利用できるよう制度の改善に寄与する所存である。

 

 


1 総務省行政管理局「令和5年度における行政機関情報公開法の施行の状況について」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000974650.pdf

2 総務省行政管理局「平成26年度における行政機関情報公開法の施行の状況について」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000405587.pdf


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