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「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」に関する意見書

令和7年8月25日

法務省民事局参事官室 御中


                                                                                        東京司法書士会

会長 千 野 隆 二


 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」に関する意見書


 成年後見制度創設当初より、司法書士は成年後見人として選任され、成年後見業務に取り組んできた。また成年後見業務に取り組む司法書士会員のために、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートを設立し、会員の能力研鑽、指導等を行ってきた。

 一方で司法書士は、ごく一般的な登記業務や簡裁訴訟代理等関係業務においても、成年後見制度との関りがある。例えば以下のようなケースである。
・不動産の売却を希望している所有者に、認知症の症状が見られる。この状態で不動産の売却は可能か。
・不動産の所有者に相続が発生し、相続人の一人に認知症の症状が見られる。この状態で遺産分割協議は可能か。
・簡裁訴訟代理等関係業務において、相手方に対して契約解除、金銭支払いの請求等を通知する場合に、相手方に認知症の症状が見られる。
・遺言書の作成を考えているが、当事者に認知症の症状が見られる。この状態で作成した遺言書は有効か。
 したがって、司法書士が成年後見人として選任されていない場合にも司法書士業務に関連する論点を中心に、本意見を発出するものである。

※P1
(前注1)本試案では「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況」等の用語に
ついては、現行民法等の表現を用いているが、これらの用語に代わる改正の趣旨を踏まえ
たより適切な表現があれば、その用語の見直しも含めて検討すべきであるとの考え方があ
る。
また、本試案では、見直し後の制度において成年後見人、保佐人又は補助人に相当する立
場にあるものとして「保護者」との用語を、同じく後見、保佐又は補助に相当するものと
して「保護」との用語を用いているが、これらの用語を用いると確定したものではなく、
「支援人」及び「支援」との用語を用いる考え方などがあり、用語については、引き続
き、検討することを前提としている。なお、現行民法等の規律を説明する場合等には、
「成年後見人」や「成年被後見人」との用語を用いることがある。


<意見>
「保護者」又は「支援人」との用語を用いることに反対する。

<理由>
 2000年4月1日に現在の成年後見制度が施行されたが、施行後しばらくは「成年後見という言葉を聞いたことがない」「制度のことは良くわからないため、使うのはためらわれる」といった市民が多く存在した。地域の福祉関連のお祭りなどで、来場者に対して行ったアンケートなどでも、「成年後見制度を知っているか」「成年後見制度に抱くイメージは」といった設問に前記のような回答が多く寄せられていた。
 今では多くの市民が理解を深めている「成年後見」という用語は制度当初からスムーズに市民に受け入れられていたわけではなく、20数年という期間に多くの関係者が啓蒙してきたことで、市民に受け入れられてきている用語となっている。
司法書士の業務においても接することが多い金融機関や不動産業者等にも「成年後見」の用語は普及し、定着している。
 この「成年後見」の用語を変更することは、更なる発展につながるメリット以上に、「よくわからない制度が始まった」という認識を市民にもたらすデメリットに繋がる可能性が高いのではないかと考える。
 また、「保護者」は未成年者の親権者等といった意味として、「支援者」はボランティアスタッフなどを含めた幅広い支援する者といった意味として、既に一般的な用語として社会に定着しており、これまで使用している用法に加えて改正後の法律用語として意味を持たせた場合に、介護や福祉などの現場において従来の意味の用語として使用しているのか、民法上の制度の適用がある用語として使用しているのかの区別がつかないといった混乱を招きかねないのではないかと懸念される。「成年後見」制度を新しく発展していくにふさわしい適切な用語が見当たっていないことに鑑みると、引き続き「成年後見」という用語を使っていくことが安定した制度の発展に資するものと考える。


※P10
2 法定後見に係る期間
 第1の1(1)においていずれの案をとる場合であっても、次の【甲案】、【乙1案】又は【乙2案】のいずれかの案によるものとする。
【甲案】
(第1の1(1)においていずれの案をとる場合であっても)
現行法の規律を維持する(法定後見に係る期間は設けない)ものとする。
【乙1案】
(第1の1(1)においていずれの案をとる場合であっても)
① 家庭裁判所は、次の審判をする場合には次の期間を定めなければならないものとする。
a保護者に代理権を付与する旨の審判 保護者が代理権を有する期間
b保護者の同意を要する旨の審判 保護者の同意を要する期間
c本人のする法律行為を取り消すことができる旨の審判 取り消すことができる法律行為の期間
d保護者を選任する審判 その任期
② 保護者は、①aからdまでの期間が満了する前の一定期間の間に、①aからdまでの期間の更新の要否について、家庭裁判所に報告をしなければならないものとする。
③ 保護者及び①aからdまでの審判の請求権者は、①aからdまでの期間が満了する前の一定期間の間に、①aからdまでの期間の更新を求める旨の申立てをすることができるものとする。
(注1)期間を定めることを必要的とせずに、家庭裁判所の裁量によって定めることができるものとするとの考え方がある。
(注2)期間については、家庭裁判所の裁量に委ねる考え方、上限を法定した上でその範囲で家庭裁判所の裁量に委ねる考え方がある。
(注3)期間満了する前の一定期間の間に、②の報告がないときは、家庭裁判所が職権で①aからdまでの期間を伸長することができるものとするとの考え方がある。
(後注)この考え方は、②の報告をしないことが保護者の解任事由となり得る(現行民法第846条の「その他後見の任務に適しない事由があるとき」に該当し得る)ものであることを前提としている。
【乙2案】
(第1の1(1)においていずれの案をとる場合であっても)
①保護者は、法定後見の開始から法定された期間(〔〕年)経過後〔〕月内に、家庭裁判所に対し、法定後見の要件の存在に関する報告をしなければならないものとする。

②家庭裁判所は、①の報告又は①の報告がなく職権で調査した結果により、法定後見の要件が存在していると認めることができない場合には、申立てにより又は職権で、保護を開始する審判を取り消す〔終了する〕旨の審判又は保護者に代理権を付与する旨の審判若しくは保護者の同意を要する旨の審判を取り消す旨の審判をするものとする。

(後注)この考え方は、①の報告をしないことが保護者の解任事由となり得る(現行民法第846条の「その他後見の任務に適しない事由があるとき」に該当し得る)ものであることを前提としている。


<意見>
乙1案及び(注3)に賛成する。

<理由>
 先に述べたように、不動産の売却や遺産分割協議の場面では、当事者の事理弁識能力に疑いがある場合に、現行法(甲案)では、被後見人の死亡まで成年後見は終了しないため、当事者の親族が成年後見制度の利用を躊躇し、手続が進まずに放置されるケースが散見される。このことが管理不全の空き家・所有者不明土地の増加という社会問題ともなっている。

 乙1案のように、法定後見に係る期間設定と更新手続のスケジュールがあらかじめ当事者に明示され、その間に不動産の売却や遺産分割協議という法律行為を完了することで、結果として本人の財産保護並びに法定後見制度の利用促進につながることが期待される。

 また同案では、保護者に対し、法定後見に係る期間の満了前一定期間に、保護の必要性を踏まえて、期間更新の要否について家庭裁判所に報告する義務を課している。これにより、不動産の売却や遺産分割協議が完了したとしても、本人保護の必要性が消滅していない場合に期間の満了のみをもって法定後見が終了してしまったり、保護者等が適切に対応しない場合に本人に大きな不利益が生じてしまうリスクを防ぐことができる。

 さらに、家庭裁判所が保護者に権限を付与する旨の審判又は保護者を選任する旨の審判をするときは、家庭裁判所がその審判による法的効果の存続期間を定めるものであり、法定後見を開始する旨の審判後の本人の状況の変化を定期的に確認することにより、本人保護のための対応が可能となっている。

※P19

3 意思表示の受領能力等

(1)意思表示の受領能力
 第1の1(1)において、【甲案】をとる場合には次のアによるものとし、【乙2案】をとる場合(事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設ける場合)には次のイによるものとし、【乙1案】をとる場合(事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない場合)には次のウによるものとする。
 ア 第1の1(1)において【甲案】をとる場合
 現行法の規律(成年被後見人に関する意思表示の受領能力の規律)を維持するものとする。
 イ 第1の1(1)において【乙2案】をとる場合
 第1の1(1)【乙2案】ア①の保護(保護A)の本人に関する意思表示の受領能力の規律 を設けないものとし、第1の1(1)【乙2案】イ①の保護(保護B)の本人に関する意思表示の受領能力の規律(現行法の規律)を設ける(維持する)ものとする。

 ウ 第1の1(1)において【乙1案】をとる場合

 法定後見の本人に関する意思表示の受領能力の規律を設けない(削除する)ものとする。


<意見>
賛成する。

<理由>
 理論上、自然な帰結と考える。
 なお、補足説明では、乙1案をとった場合に、「事理弁識能力を欠く常況にある者」を対象とする包括的な保護の仕組みを設けないことについて慎重な検討が必要とされている。現行法98条の2が成年被後見人に対する意思表示について一律に「対抗できない」とすることで、意思能力の有無にかかわらず、有利な意思表示だけを選んで主張できる余地を残し、これにより成年被後見人を保護していると指摘している。
 しかし、乙1案を採用するということは、そもそも本人の意思能力の程度について、外部から一律に確認できる法的な境界線を設けないことを意味する。すなわち、意思表示の受領の場面においても、意思表示の発出者が相手方の意思表示受領能力について、法的に明確な基準を頼りに判断することは困難になる。
 こうした中で、従来のように一律に意思表示を「対抗できない」とする保護は、意思能力の程度が流動的である以上、過剰なものとも考えられ、かえって取引の法的安定性を損なうおそれがある。
 また、真に「事理弁識能力を欠く常況にある」状態に至っているのであれば、意思能力がなかったことの立証も過度に困難ではないと考えられる。
 したがって、乙1案を採用したとしても、意思表示の受領能力に関する特別な規律を残さず、必要に応じて個別の保護を付与する方向性は妥当であり、不必要な保護を残すべきではない。

※P19
(2)意思表示を受領する権限を有する者を選任する仕組み
第1の1(1)においていずれの案をとる場合であっても、次の【甲案】又は【乙案】のいずれかの案によるものとする。
【甲案】
現行法の規律を維持する(意思表示を受領する権限を有する者を選任する仕組みを設けない)ものとする。
【乙案】
家庭裁判所は、事理弁識能力を欠く常況にある者については、利害関係人の請求により、本人に代わって意思表示を受ける者を選任することができるものとする。
(注)法定後見の利用が終了した後であることを要件とする考え方、法定後見を利用している間に代理権を付与された保護者がした法律行為に係る意思表示をする必要があることを要件とする考え方がある。

<意見>
乙案に賛成する。あわせて、本文(注)の要件はいずれも設けない形とするべきである。

<理由>
 現行法では、本人に意思表示の受領能力がない場合、相手方は訴訟を提起して特別代理人を選任するしかなく、これは手続的、経済的負担が大きい。さらに、後見の申立権者が限定されていることから、取引の相手方自らが後見を申し立てることも難しく、実務上は行き詰まるケースが少なくない。
 例えば、所有者不明土地事案においては相続人が多数となっているケースが多いが、相続人の中に意思表示の受領能力がない者が含まれる場合、遺産分割協議を申し入れたくても協議が進められず、問題が放置されることがある。
 本来であれば、後見を申し立てて後見人と協議を行うべきだが、申し入れを行う当事者が申立権者に含まれないことが多く、申立権者である親族に申立てを依頼しても時間的、経済的負担を理由に協力を得られないのが現状である。
 この点、相手方が家庭裁判所に対して意思表示の受領権者の選任を申し立てられるのであれば、選任された受領権者が状況を整理把握し、必要であれば後見申立てなどの次のステップにつなぐことができ、問題解決の糸口となることが期待できる。
 したがって、意思表示受領権者の選任は本文(注)に記載された要件に限定せず、柔軟に認めるべきである。
 意思表示受領権者としては家族を選任するのが基本と考えるが、事案に応じて専門家が選任される余地も残すべきである。
 また、意思表示受領権者の権限の存続期間は、後見制度に準じた運用を基本とすれば足りると考える。

※P21
6 成年被後見人の遺言
第1の1(1)において、【甲案】をとる場合には次の(1)によるものとし、【乙2案】をとる場合(事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設ける場合)には次の(2)によるものとし、【乙1案】をとる場合(事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない場合)には次の(3)によるものとする。
(1) 第1の1(1)において【甲案】をとる場合
現行法の規律(成年被後見人の遺言の規律)を維持するものとする。
(2) 第1の1(1)において【乙2案】をとる場合
第1の1(1)【乙2案】ア①の保護(保護A)の本人について現行法の規律を設けないものとし、第1の1(1)【乙2案】イ①の保護(保護B)の本人については現行法の規律(成年被後見人の遺言の規律)を維持するものとする。
(3) 第1の1(1)において【乙1案】をとる場合
成年被後見人の遺言の規律を設けない(削除する)ものとする。

<意見>
甲案及び乙2案をとる場合の規律に賛成する。
乙1案をとる場合の規律についても賛成するが、現行法の規律を削除するとしても、後の紛争予防のために民法第973条の方法によって遺言をすることは妨げられないことを併せて周知する必要があると考える。

<理由>
 甲案、乙2案ともに、事理弁識能力を欠く状況にあるものについて仕組みを設ける場合であり、現行法第961条、同第973条の適用が維持される。事理弁識能力を各状況にあるものでも、一時的に事理弁識能力を回復した場合において、同第973条によって遺言できる機会を維持することは、後の紛争防止の観点からも賛成できる。
 それに対して、乙1案に関しては、事理弁識能力を欠く状況にあるか否かについての区別を設けないという場合であり、現行法第973条の規律を削除することについては賛成する。なお、乙1案の場合であっても、紛争を防ぐ観点から、本人が医師二人以上の立会いのもと、成年後見人の遺言の規律を維持する意見もあるが、その場合に、甲案、乙2案のように事理弁識能力を欠く状況にあるものの区別がないため、現行での保佐、補助類型相当の者であって十分に遺言能力を有する者も、後の紛争防止のため、本人が医師二人以上の立会いが必要か否かを判断しなければいけない状況が考えられ、遺言の利用に関して利便性が損なわれる恐れがあるという指摘は十分理解できる。
 しかしながら、乙1案の場合においても、事理弁識能力に不安を抱く者に遺言能力があることを医師二人に担保してもらい、遺言をしたいと考えることはあり得るのであって、民法上の規律が削除されたとしても、自らの遺言に関する後の紛争を予防し、安心して遺言を残すための一つの方法として、現行法第973条の方法による遺言を任意で行うことまでが禁止されるわけではないという事を、国民に周知することが必要であると考える。

※P27
第8 その他
 3 その他
成年後見登記の制度について

<意見>

 1.新しい制度を、本人を中心としたきめ細やかな制度として運用していくためには、成年後見登記が今よりも迅速に手続され、登記事項証明書についてもより安価でより取得しやすい制度とすべきである。

 2.司法書士その他の資格者の事務所所在地を後見人の住所として登記することを明文で許容すべきである。                                 

 3.司法書士は婚姻前の旧姓等を職務上の氏名(以下「職名」という。)として使用することが許容されているが、職名を登記事項に加えるべきである。

<理由>
 1.新しい制度を、本人の状況に必要な限度で本人をサポートする制度としていくことを目指すには、日々の状況の変化に合わせてサポートする内容を加除修正していくことが必要となる。そうした柔軟かつ細やかな変化の伴う制度を構築した場合には、例えば本人の契約の相手方など、本人と関わることとなる者において、本人が行うことの内容や本人が必要としているサポートの内容を適切に確認する必要が生じることが予想され、その場合に速やかに信頼性のある証明書でその内容が確認できる体制が整っている必要がある。
 そして、適時適切に本人をサポートするためには、家庭裁判所の審判を迅速に行う体制を整えることはもちろんのこと、その内容を登記に正確かつ迅速に反映させ、その証明書を安価に本人またはサポートする者が取得できる体制を整えていかなければ、適切な本人支援につながらないという事態が生じうる。
 現在は、東京法務局の後見登録課で、全国の成年後見登記事務を取り扱っており、登記事務のうち、窓口での証明書交付は、東京法務局民事行政部後見登録課及び各法務局民事行政部戸籍課並びに地方法務局戸籍課で取り扱っているところ、今後、本人が受けるサポート内容の確認やその修正等が本人の状況に応じて細かに修正される場合には、審判されてからその内容が登記に反映されるまでに数週間を要し、その証明書の取得が、原則として各都道府県で1か所でしか取り扱われず、取得のために550円の収入印紙を要するという状況を改善していく必要があるものと考える。
 2.現在、法定後見の登記においては、成年後見人等の住所として、司法書士の住民票上の住所ではなく事務所住所を登記することが許容されているところ、任意後見の登記においては、司法書士の事務所住所を登記することが許容されていない。任意後見受任者及び任意後見人の住所として、司法書士その他の資格者の事務所住所を登記することを明文で許容すべきである。
 3.職名は現在、選任審判書に記載されるのみで、後見登記事項証明書には記載されない。司法書士後見人が、市区町村や金融機関等へ後見人としての届出を行う際に、職名を用いて届出を行うためには、選任審判書の他に、審判の確定証明書を取得し、提供する必要がある。なお、この二点を提供しても、実際には後見登記事項証明書を求められるケースが多く、後見登記事項証明書には職名の記載が無いため、その都度、担当者へ多大な時間と労力を費やして説明せざるを得ず、改善すべきである。 

                                       以 上


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