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パブリックコメント 「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見

パブリックコメント

「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見

 

令和8年8月21日

東京司法書士会

 

 当会は、標記省令案に関して意見を述べる。

 当会は、令和6年に株式会社の代表取締役等の住所の一部非表示措置が新設された商業登記規則等改正(以下「令和6年規則改正」という。)の際にも、「パブリックコメント『商業登記規則等の一部を改正する省令案』に関する意見」(以下「令和6年当会意見」という。)を述べている。 

 これを踏まえ、以下では、今回示された商業登記規則等の一部改正案についての意見を述べるとともに、同改正案には記載がないものの実務上必要と考えられる制度についても併せて意見を述べる。

 

第1 改正案全体に対する意見 

【意見の趣旨】

 全ての会社及び会社以外の法人等(以下「会社等」という。)の代表者等の住所について一部非表示措置を講ずることができるとする改正は、商業登記規則等による改正ではなく会社法、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律、商業登記法等の法改正によって行う必要がある。

 

【意見の理由】

 当会は、会社等の代表者等の住所について一部非表示措置を講ずることができるとすることには賛成の立場ではあるが、その方法については、令和6年当会意見においても、同旨の意見を述べており、今回の改正案に際しても改めて以下のとおり意見を述べる。

 商業登記は、「会社法その他の法律の規定により登記すべき事項を公示するための登記に関する制度について定める」(商業登記法第1条)ものであるところ、どの範囲までを登記事項とするかは、「当該商人の利益と関係経済主体間の利益を妥当に調整する観点が必要」とされ、「何を登記事項とするかは、高度の政策判断に基づくのであり、よって法律によるべきもの」とされている(森本滋、山本克己編『会社法コンメンタール20-雑則(2)』商事法務、2016年、179頁・180頁)。

 会社法は、株式会社の登記すべき事項を定めたほか、持分会社の登記すべき事項も定め(第912条~第914条)、持分会社の社員又は代表社員及び職務執行者について、それぞれ氏名及び住所を登記するように定めている。

 また、会社の支配人については、商業登記法第44条第2項第1号、持分会社の清算人については会社法第928条第2項第1号で、その「氏名及び住所」を登記すべきとされている。

 しかし、今回の改正案は、商業登記規則等の改正により、登記事項である代表者等の住所について行政区画以外のものを登記事項証明書に記載しない措置を設けるというものである。行政区画のみの情報では、代表者等について住所の特定はできず、住民票の取得も不可能であるから、登記事項である住所を公示しないことと事実上同義と言える。

 また、今回の改正案は、その対象をすべての会社の代表者(清算人等を含む。)及び支配人に、それぞれ拡大することに加えて、会社以外の各種法人等においても代表者の住所を記載しない措置の申出ができるものとなっている。その対象となる法人は広汎であり、法人間の取引、裁判所や登記の実務、さらには犯罪による収益の移転防止に関する法律上の取引時確認(第4条)の実務にも大きな影響を与えるものである。

 代表者等の住所をどこまで公示するかは関係者間の利益を妥当に調整する「高度の政策判断」が必要な事項であり、会社法、商業登記法等の法改正によることが望ましいようにも思われる。それゆえ、今回の改正について商業登記規則等改正をもって行うことについて疑問なしとしない。

 もっとも、近時においても、「規制改革に関する答申」(令和8年6月29日規制改革推進会議)及び「規制改革実施計画」(同年7月21日閣議決定)では、株式会社以外の法人における代表者のプライバシー保護の必要性や、多種多様な法人を誰もが安心して設立又は運営できる環境整備の必要性が指摘されており(同答申256ページ及び同実施計画158ページ)、このような必要性が存することは当会も承知するところである。

 そこで、改正案に沿って商業登記規則等改正により対象範囲を拡大するのであれば、制度趣旨を活かし、かつ実務上の弊害を生じさせないため、少なくとも第2以下で述べる意見を満たすような制度設計と運用を行うべきである。

 

第2 商業登記規則の一部改正案について 

1 一部非表示措置の対象者の範囲の拡大について 

【意見の趣旨】

 一部非表示措置の対象者に、会社の支配人を加えることについて賛成する。

 

【意見の理由】

 当会は、令和6年当会意見においても、一部非表示措置の対象者に会社の支配人を加えることを検討すべき旨意見を述べたところであり、改正案に賛成する。

 会社の支配人は、会社に代わって事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有しているが(会社法第11条第1項)、会社法上、支配人は会社の使用人として位置付けられており、会社の指示に従って支配人に選任されているにすぎない立場である。会社の使用人と異なり、役員として会社を経営し、従業員を雇用し、経営責任を追及される立場にある代表取締役と比較すれば、支配人の住所を公示する必要性は相対的に低いことは明らかである。

 それにもかかわらず、令和6年規則改正では、住所を公示する必要性が相対的に高い代表取締役の一部非表示措置が認められ、他方、その必要性が相対的に低い支配人の住所の公開は維持されたままであった。このことは、公示の要請とプライバシー保護の要請とのバランスが適切でない状態であると考える。

 したがって、一部非表示措置の対象者に支配人を加えることについて賛成する。

 

2 一部非表示措置の申出の時期について

【意見の趣旨】

 法務局の事務手続の体制等を速やかに整備し、一部非表示措置の申出の時期について、登記申請の時期にかかわらず、いつでも申出をすることができるようにすべきである。

 

【意見の理由】

 当会は、令和6年当会意見においても、「登記申請の時期にかかわらず、いつでも申出をすることができるようにすべきである」との意見を述べた。改正案により一部非表示措置の対象を拡大するのであれば、ますますその必要性は高まったと考える。

 まず、現在、一部非表示措置を講じるには、代表取締役等の就任の登記等の一定の登記申請の際に同時に申出するしかない。この点、令和6年当会意見でも指摘したように、代表取締役等のプライバシー保護の観点からは、いつでも申し出ることができるようにすることが望ましい。

 次に、改正案によれば、任期の定めのない会社等の代表者もその対象となる。そして、一部非表示措置の申出ができる者は、「住所が登記すべき事項に含まれる登記を申請する者」(改正案第31条の3第1項柱書)とされているため、そのような会社等においては、一旦、代表者等について、一部非表示措置を講じていない就任登記を行ってしまうと、一部非表示措置を行うためには、代表者等を辞任して再度就任登記をするか住所変更等の登記をしない限り、一部非表示措置の申出が不可能となる。これでは、新たに一部非表示措置の対象を拡大するとの意義が大幅に没却されてしまう。

 したがって、登記申請の時期にかかわらず、いつでも一部非表示措置の申出が可能となるようにすべきである。

 なお、付言すれば、令和6年当会意見においても述べたとおり、一部非表示措置の申出が一定の登記申請の時期に限るとされているのは、おそらくは法務局の現場の事務手続の負担増を考えてのことであると思われる。今回の改正案により登記事務処理日数のさらなる増加等が強く懸念されるところである。当会は、これまでも他の意見募集の際、「適正かつ迅速な登記事務処理がされるよう全国の法務局に対する予算及び人員の増加措置の要望」を行ってきたところ(例えば、直近のものでは、令和8年2月3日付け「パブリックコメント『不動産登記規則の一部を改正する省令案』に対する意見」)、今回も重ねて、適正かつ迅速な登記事務処理がされるよう全国の法務局に対する予算及び人員の増加措置を要望するものである。

 

3 一部非表示措置の期間について

【意見の趣旨】

 一部非表示措置に2年程度との期間制限を設け、期間経過後も非表示措置を希望する場合は、更新の申出ができるような措置を講ずるべきである。

 

【意見の理由】

 当会は、令和6年当会意見において、代表取締役等のプライバシーの保護の要請と公開が原則である商業登記の公示の要請との調和の観点から、非表示措置に2年程度の期間制限を設けること及び期間経過後も非表示措置を希望する場合には更新の申出を利用する制度とすべき旨意見を述べた。今回の改正案により一部非表示措置の対象を拡大するのであれば、ますますその必要性は高まったと考える。

 まず、令和6年当会意見でも指摘したように、商業登記規則第31条の2で定めるDV被害者等の住所非表示措置には3年間の期間制限が設けられているのに対し、現行一部非表示措置においては、一旦一部非表示措置が講じられると、終了事由に該当しない限り、一部非表示措置が継続するとの点である。すなわち、「住所が明らかにされることにより被害を受けるおそれがあることを証する書面」の提出が必要とされるDV被害者等の住所非表示措置には期間制限があるのに対し、このような被害を受けるおそれがなくとも利用可能な一部非表示措置には期間制限がない。このようなアンバランスが生じており、その是正の観点から期間制限を設けるべきである。

 次に、改正案によれば、代表者について任期の定めのない会社等もその対象となる。株式会社であれば最長10年の任期ごとに重任の登記申請が行われるのに対し、任期の定めない会社等では申請書その他の附属書類の保存期間である「受付の日から10年」(商業登記規則第34条第4項第4号)の期間内に全く登記申請を行わないことも考えられる。そのような会社等において、一旦一部非表示措置が講じられると永久にそのまま一部非表示の状態が継続してしまうことも考えられる。そうすると、登記簿の附属書類の閲覧(商業登記法第11条の2)により代表者等の住所を確認しようと考えた利害関係人が、いざ閲覧をしようとした際には、対象となる附属書類が廃棄され、既に存在しないとの事態が生じる懸念がある。

 したがって、一部非表示措置に2年程度との期間制限を設け、期間経過後も非表示措置を希望する場合は、更新の申出ができるような措置を講ずるべきである。

 

4 住所が表示された登記事項証明書等の交付及び資格者代理人がオンライン申請により住所を確認できる仕組みの新設について

【意見の趣旨】

 一部非表示措置が講じられている会社等において、当該会社等及び当該会社等から委任を受けた者並びに登記申請の代理を業とすることができる代理人(以下「資格者代理人」という。)又は利害関係を有する者から請求がある場合は、代表者等の住所が表示された登記事項証明書及び登記事項要約書(以下「登記事項証明書等」という。)の交付をするべきである。

 併せて、当該会社等及び当該会社等から委任を受けた資格者代理人が、オンライン申請によって不動産登記における登記識別情報に関する有効証明請求(不動産登記規則第68条)に類似する方法により、代表者等の住所を確認できる仕組みを新設すべきである。

 

【意見の理由】

(1)取引の安全への影響

 株式会社について一部非表示措置が講じられた登記事項証明書は、本人確認資料として不十分さは否めず、金融機関において追加資料を求められるなど一定の影響も生じているようである。改正案により対象の会社等が拡大されることで、同様の影響が生ずることが懸念される。

 また、犯罪による収益の移転防止に関する法律上の取引時確認など、マネーローンダリング対策の国際的な要請は、今後さらに強まるものと考えられる。

 したがって、取引の安全及び円滑性を確保する観点からは、代表者等の住所を確認することができる仕組みを整備することが重要である。

(2)消費者被害等への対策

 悪徳商法等の消費者被害については、被害の回復及び更なる被害拡大の防止のため迅速な対応が求められる。ところが、当該被害を起こした株式会社について、一部非表示措置が講じられている場合、登記簿の附属書類の閲覧(商業登記法第11条の2)により代表者等の住所を確認することが可能であるものの、閲覧できる者の範囲が厳格であることから代表者等の住所確認に時間を要する場合がある。改正案により、対象の会社等が拡大されることにより、同様の影響が生ずることが懸念される。

 ところで、本人等以外の者の申出による住民票の写し等の交付(住民基本台帳法第12条の3)及び第三者による戸籍謄本等の交付請求(戸籍法第10条の2)については、既に、住民票の写し等については正当な理由がある者に対する交付が、戸籍謄本等については正当な理由がある者による請求が、それぞれ認められている。

 そこで、代表者等の住所が表示された登記事項証明書等について、これらと同様に、一定の利害関係を有する者への交付を可能とすることにより、登記簿の附属書類の閲覧と比較して代表者等の住所へ容易にアクセスすることが可能となり、消費者被害等への迅速な対応に資するものと考える。

(3)オンライン申請により住所を確認できる仕組みの新設

 資格者代理人が、一部非表示措置が講じられた会社等から登記申請の依頼を受けた場合には、登記記録上の代表者等の住所を正確かつ速やかに確認する必要がある。代表者等の住所が表示された登記事項証明書等の交付が実現した場合であっても、この交付請求を行い、現実に取得するには一定の時間を要することになると考えられる。この間、政府全体でDX化が推進されているところ、登記事項証明書等の書面や閲覧請求のみではなく、オンライン上で代表者等の住所を即時に確認できる仕組みを設けることは、登記手続の迅速化や申請人の利便性の向上のみならず、法務局における登記事項証明書等の交付事務や閲覧請求の事務負担を軽減させることにもつながるものである。

 したがって、オンライン申請により代表者等の住所を確認することができる仕組みを設けるべきである。

(4)まとめ

 上記の理由から、住所一部非表示措置が講じられた会社等及び当該会社等から委任を受けた者並びに資格者代理人又は利害関係を有する者から請求がある場合は、代表者等の住所が表示された登記事項証明書等の交付をすべきである。

 併せて、当該会社等及び当該会社等から委任を受けた資格者代理人が、オンライン申請によって不動産登記における登記識別情報に関する有効証明請求(不動産登記規則第68条)に類似する方法により、代表者等の住所を確認できる仕組みを新設すべきである。

 

5 登記簿の附属書類の閲覧請求について

【意見の趣旨】

 代表者等住所一部非表示措置の申出に関する書類について、閲覧を請求することができる利害関係を有する者を検討すべきである。この場合、商業登記法第11条の2に規定する登記簿の附属書類の閲覧についての利害関係を有する者よりその範囲を拡大すべきである。

 

【意見の理由】

 登記簿の附属書類は、株主リストや議事録等、登記事項とは無関係な内容の書面が含まれているため、閲覧できる者の範囲を厳格にする必要がある一方で、住所非表示措置の申出に関する書類の閲覧の当否は、取引実務や訴訟実務、消費者問題に対する影響にも配慮し、緩やかな運用が望まれる。

 よって、代表者等住所一部非表示措置の申出に関する書類について、閲覧を請求することができる利害関係を有する者の範囲を検討すべきである。この場合、商業登記法第11条の2に規定する登記簿の附属書類の閲覧についての利害関係を有する者よりその範囲を拡大すべきである。

 

6 本店所在場所における実在性について

【意見の趣旨】

 商業登記規則第31条の3第1項第1号イに規定する会社(当該規定を準用する会社等を含む。本項において以下同じ。)が受取人として記載された書面が当該会社の本店(主たる事務所を含む。以下同じ。)所在場所に宛てて配達証明郵便等により送付されたことを証する書面について、当該郵便等を転送不要郵便として送付する要件も加えるべきである。

 

【意見の理由】

 商業登記規則第31条の3第1項第1号イ(当該規定を準用する場合を含む。)においては、上場会社以外の会社が一部非表示措置の申出をする際に、資格者代理人が当該会社の本店所在地における実在性を確認した書面又は当該会社が受取人として記載された書面が当該会社の本店所在場所に宛てて配達証明郵便等により送付されたことを証する書面を添付することとされている。

 一部非表示措置は、代表者等のプライバシー保護の観点から重要な制度である一方、登記上の代表者等の住所は、代表者本人を特定するものとして重要な役割を果たしており、訴訟上も訴状の送達等で重要な役割を担う。重要な役割を果たすべき代表者等の住所が登記事項証明書等に表示されない場合には、会社の本店所在場所が、当該会社との連絡、商取引上の信用確保及び会社に対する訴状等の送達を確保する観点から、従前にも増して重要な意味を有することになる。

 加えて、今回の改正案により、一部非表示措置の対象が会社等に拡大し、その適用対象者の範囲も拡大することを考えれば、本店等がその所在場所において実在することを適切に確認する必要性は、一層高まるものと考える。

 この点、資格者代理人においては、本店がその所在場所に実在することを確認した書面を作成する場合においては、その職責に照らし、当該会社の本店所在場所における実在性について、単に当該会社の表札が掲示されていることや、当該会社宛ての郵便物が届くこと等の形式的な実在性のみならず、現に当該本店所在場所が会社の業務遂行のために継続的に使用され、定款、計算書類等の各種書面又は電磁的記録が備え置かれていること等、当該会社の本店機能を有する程度の実在性まで確認して作成するものと考えられる。

 他方、当該会社等が受取人として記載された書面が本店所在場所に宛てて配達証明郵便等により送付されたことを証する書面を提出する方法については、当該会社等も郵便の転送サービスを利用することは可能であり、配達証明郵便等のみでは必ずしも当該会社等の本店の実在性を担保することはできない。

 そこで、当該郵便等が送付されたことを証する書面にて本店の実在性を確認する場合においては、転送不要郵便により送付するという要件も加えることにより、当該会社等の実在性を担保すべきと考える。

 

第3 電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の一部改正について

【意見の趣旨】

 登記情報の提供においても、一部非表示措置が講じられている会社等及び当該会社等から委任を受けた者並びに資格者代理人から請求がある場合には、当該会社等の登記情報について代表者等の住所が表示される措置を講ずるべきである。

 

【意見の理由】

 前記第2-4「住所が表示された登記事項証明書等の交付及び資格者代理人がオンライン申請により住所を確認できる仕組みの新設について」において述べた理由は、登記情報の提供においてもそのまま当てはまる。

 よって、登記情報の提供においても、一部非表示措置が講じられている会社等及び当該会社等から委任を受けた者並びに資格者代理人から請求がある場合には、当該会社等の登記情報について代表者等の住所が表示される措置を講ずるべきである。

以上


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