東京高裁及び福岡高裁における同性婚訴訟違憲判決を受けて(会長談話)
東京高裁及び福岡高裁における同性婚訴訟違憲判決を受けて(会長談話)
令和6年12月27日
東京司法書士会
会長 千 野 隆 二
1.同性間の婚姻を認める規定を設けていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定が憲法に違反するとして争われた訴訟の控訴審において、東京高等裁判所及び福岡高等裁判所は、いずれも違憲判決を出しました。
当会は、これまでも令和5年7月14日付け「同性間の婚姻制度をめぐる一連の地裁判決を受けて(会長談話)」において、全ての国民がその性的指向又は性自認にかかわらず、異性間の婚姻関係と異ならない法的効果を享受可能な制度について、さらに国民的議論が広がることを期待する旨を表明してきましたが、上記2つの判決の結果、これまで判決のあった3つ全ての高等裁判所において、違憲判断がされたことになります。
2.東京高等裁判所は、令和6年10月30日付けの判決において、「性的指向が異性に向く者は、自らの自由意思により人生の伴侶と定めた相手との永続的な人的結合関係について、婚姻により配偶者としての法的身分関係の形成ができるのに対し、性的指向が同性に向く者は、これができないという区別」(以下「本件区別」といいます。)について、「婚姻及び家族に関する事項は国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえて定めるべきことを考慮しても、性的指向という本人の意思で選択や変更をすることができない属性により個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益の享受の可否につき本件区別が生じている状態を現在も維持することに合理的根拠があるとはいえない。」とした上で、「現行の法令が、民法及び戸籍法において男女間の婚姻について規律するにとどまり、同性間の人的結合関係については、婚姻の届出に関する民法739条に相当する配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定を設けていないことは、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益について、合理的な根拠に基づかずに、性的指向により法的な差別的取扱いをするものであって、憲法14条1項、24条2項に違反する」と判示しました。
さらに、同性間の人的結合関係について、配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定を設ける方法として複数の選択肢があることを具体的に適示した上で、「上記区別を解消するためにとるべき立法措置として複数の選択肢が存在することや、その立法措置に伴い構築されるべき具体的な制度の在り方は国会の合理的な立法裁量に委ねられることは、上記区別を解消する立法措置をとらないことの合理的根拠とならない」として、国会による本件区別の解消のための立法措置を強く促す判示をしています。
3.福岡高等裁判所は、令和6年12月13日付けの判決において、「憲法13条は、婚姻をするかどうかについての個人の自由を保障するだけにとどまらず、婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利をも認めていると解するべきであり、このような権利は同条が定める幸福追求権の内実の一つであるといえ」、「幸福追求権としての婚姻について法的な保護を受ける権利は、個人の人格的な生存に欠かすことのできない権利であり、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利である」とした上で、「互いに相手を伴侶とし、対等な立場で終生的に共同生活をするために結合し、新たな家族を創設したいという幸福追求権の願望は、両当事者が男女である場合と同性である場合とで何ら変わりがないから、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法的な保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれも等しく有しているものと解される」とし、婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定のうち、「異性婚のみを婚姻制度の対象とし、同性のカップルを婚姻制度の対象外としている部分は、異性を婚姻の対象とすることができず、同性の者を伴侶として選択する者の幸福追求権、すなわち婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利に対する侵害であり、憲法13条に違反するものといわざるを得ない」、「合理的な根拠なく、同性のカップルを差別的に取扱うものであって、法の下の平等を定めた憲法14条に違反する」、「個人の尊重を定めた憲法13条に違反するものであるから、婚姻に関する法律は個人の尊厳に立脚して制定されるべき旨を定める憲法24条2項に違反することは明らかである」と判示しました。
4.平成27年以降、多様な性に対する理解のもと、誰もが自分らしく生き生きと 活躍できる社会の実現等を標榜し、渋谷区及び世田谷区を皮切りに全国の自治体においてパートナーシップ制度の導入が進み、報道によれば、本年6月時点で459自治体が同制度を導入し、人口カバー率は85%超しているとのことであり(1) 、東京都においても「東京都パートナーシップ宣誓制度」を実施し、本年11月30日時点での受理証明書交付組数は1472組に達したとのことです(2) 。上記東京高等裁判所の判決においては、「民間企業においても、同性間の人的結合関係を婚姻関係と同等に扱う動きが広がっている。地方公共団体のパートナーシップ制度は、婚姻制度のように法的な身分関係の形成とこれに伴う種々の権利義務の発生という法的効果を生じさせるものではなく、当事者間の関係に社会的公認を与えるものとして一定の効果があるにとどまるが、それにもかかわらず、近年急速に全国各地でその導入が進んでおり、民間企業においても上記のような動きがある事実は、同性間の人的結合関係に社会的公認を受けたいという要請の存在と、地方公共団体や民間企業においてそれを受け止めるべきであるという認識が広がっていることを示すものであるといえる」と述べられています。実際、東京都では、社会的公認としての効果にとどまらず、パートナーシップ宣誓制度受理証明書の活用先の拡大等に向け、都内自治体と連携・協力を図り、パートナーシップ関係にある方が住宅関係、医療関係、福祉関係、犯罪被害者等支援などの具体的な行政サービスを享受できる仕組を実施しています (3)。
さらに同判決では、「国内外の動きに伴い、国民の意識の変化も進み、近年の同性婚に関する意識調査の結果をみると、年を追うごとに同性婚を認めることに賛成する者が増え、反対する者が減る傾向が顕著であり、」「現在では、我が国において、同性間の人的結合関係に男女間の婚姻と同様の保護を与えることについて、否定的な考え方が国民一般に広く共有されている状況にあるとはいえず、むしろ社会的受容度は相当程度高まっている」と指摘しています。
今後、令和7年3月に予定されているとされる大阪高等裁判所及び名古屋高等裁判所の判断に向け、国民的議論は、ますます同性婚の許容に向かって広がっていくものと思われますが、当会は、立法府たる国会においても、同性婚の法制化について真摯な議論と対応を行うことを期待します。
以上
(1)「パートナーシップ制度:24年6月時点で459自治体が導入、人口カバー率85%超す―渋谷区などの共同調査」
https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02195/
(2)「東京都パートナーシップ宣誓制度」
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/sesaku/sonchou/partnership
(3)「東京都パートナーシップ宣誓制度(都内自治体との連携)」
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/10jinken/sesaku/sonchou/partnership/partnership03